『ハルハトラム 7号』(現代詩の会:編、北爪満喜、白鳥信也、小川三郎、他)

 「現代詩の会」メンバー有志により制作された詩誌『ハルハトラム 7号』(発行:2025年5月)をご紹介いたします。


[ハルハトラム 7号 目次]
――――――――――――――――――――
『春のダンス』(白鳥 信也)
『網』(楼 ミュウ)
『月が浜』(橘花 美香子)
『プラネタリウム』(長尾 早苗)
『ようかい、トリップ』(水嶋 きょうこ)
『ノータイトル(No title)或いは幻想としてのウサギ』(来暁)
『生きようと試みる』(小川 三郎)
『(映った影)カシの木/柿の木』(北爪 満喜)
『ジョバンニはもういない』(恵矢)
『ごらん、まるで森だ』(サトミ セキ)
『乱視』(佐峰 存)
『願いを言う』(島野 律子)
――――――――――――――――――――

 詩誌『ハルハトラム』に関するお問い合わせは、北爪満喜さんまで。

北爪満喜
kz-maki2@dream.jp




――――
 じゃあこの先どうするのよこのままずっと
ここで年を重ねていくつもりなのと問い詰め
ても意味がないことをもう知ってしまってい
る私の先読み能力も忌々しいけどあなたもあ
なたで両の瞳に何も映さないで私の声もただ
左耳の穴から右の穴へすり抜けていくだけ自
分ひとりだけ傷つきましたと言いたげで私は
傷つける側で傷ついていないと本気で思って
るの?何だかんだ私はずっとここにいていな
くなったりしないって甘えているのはあなた
の方ではありませんかねって、ああまた私だ
け喋りすぎてしまったじゃないチョコレート
色に錆びちゃったわよこの格子の網なんだか
美味しそうかも舐めてみたら甘いのよチョコ
ううん黒胡椒に赤唐辛子すぱいしーすぎる!
ねえこれぺろぺろしてたらそのうちにこの網
溶けてなくなるんじゃないかなあなんて胸熱
スラップスティック咥えた夜も超えちゃって
もっと遠くの朝を待ってよくない?ぺろりん
――――
『網』(楼 ミュウ)より




――――
いつでも未来形であれ

透明だったころに帰れなくなったら
密室はこわくないの
――――
『プラネタリウム』(長尾 早苗)より




――――
 血液と同じ粘度になって川が夜に流れていく。ウサギが見た星は川に移り住む。夜になって川には星空が映る。夜になった川の星は光る。水は温む。
 白い綿毛が川岸の草原に見え隠れしている。ウサギたちが顔をのぞかせて周りの匂いを嗅いでいる。白いウサギは心の中でウサギたちの夢をみている。ウサギたちは鼻を近づけて挨拶を交わす。
 鳥の影が草原を走る。ウサギたちは走りだす。鳥の翼が草を走らせる。ウサギの鼓動は速くなる。耳の先は尖る。この鳥はウサギたちを食べない。この鳥の翼には太陽が住んでいる。ウサギの血液は温かくなった。
 広い草原でウサギたちと白い綿毛が見え隠れしている。丸く黄色い花が咲いている。たんぽぽの綿毛がとんでいく。
 ウサギはここで朝がくるのを待っている。夜が明ける迄跳ねずに待っている。温かくなった血液が流れている。温かい夜が続いている。
――――
『ノータイトル(No title)或いは幻想としてのウサギ』(来暁)より




――――
カイ
とても長くて難しいあなたの苗字を忘れてしまった
でも ぼくは今でもあなたの声を覚えている
針葉樹の林の奥でこだまする
深緑色の声
あの日から暮れることのない夏至 永遠につながる編目が開いて
あなたがぼくを呼ぶ

ごらん、まるで森だ
――――
『ごらん、まるで森だ』(サトミ セキ)より




この記事へのコメント